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東京地方裁判所 昭和35年(行)55号 判決

原告 磯部辰郎

右訴訟代理人弁護士 鈴木保

同 荒川晶彦

被告 国

右代表者法務大臣 小林武治

右指定代理人 朝山崇

〈ほか四名〉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

原告

被告は、原告に対し、金七二〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三九年四月九日以降支払いずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告の負担とするとの判決ならびに仮執行の宣言を求める。

被告

主文同旨の判決を求める。

第二原告の請求原因

一  山梨県南都留郡福地村大字上吉田字檜丸尾五六〇七番の九九所在の山林一反二畝歩(以下「本件山林」という。)は、もと訴外磯部辰次郎の所有であったが、同人は昭和一九年八月二九日に死亡し、同日原告がその家督を相続したので、原告の所有となったものであるところ、山梨県知事は、昭和二二年一〇月二日付で本件山林につき自作農創設特別措置法(以下「自創法」という。)三〇条の規定による未墾地買収処分をした(以下「本件買収処分」という。)。

二  しかし、本件買収処分はつぎの理由により無効であるから、本件山林の所有者は依然として原告である。

1  本件買収処分は、本件山林の所有者たる原告に対してなされたものではない。

すなわち、山梨県農地委員会は、本件山林に対する未墾地買収計画を定めるにあたり、単に本件山林の登記簿および土地台帳を調査したのみで、その余の調査をせず、その結果本件山林はすでに原告の所有となっていたにかかわらず、これをその被相続人である亡磯部辰次郎の所有であるとして買収計画を樹立し、山梨県知事もまた同人を名宛人として買収したもので、右買収は所有者を名宛人とせず、死者を名宛人としてしたものであるから、当然に無効である。

2  仮に死者を名宛人とする買収処分も無効ではなく、これを相続人たる原告に対する買収処分であるとみうるとしても本件買収処分には原告への買収令書の交付がない。もっとも、山梨県知事は昭和二三年一一月二九日付で山梨県報に本件買収処分にかかる買収令書の交付に代える公告をした。

しかしながら農地等の買収処分は、当該農地等の所有者が知れないとき、その他買収令書の交付をすることができないときを除き、当該農地等の所有者に対し買収令書を交付してしなければならず(自創法三四条、八九条)、当該農地等の所有者の住所または居所が、調査すれば容易に判明するような場合には、買収令書の交付をすることができないとして公告をもってこれに代えることはできないのである。ところで、本件買収処分の名宛人となった磯部辰次郎の住所は登記簿上も東京都日本橋区鉄砲町六番地(昭和一九年一一月三〇日町名変更により日本橋区本町四丁目二番地となる)であったが、同人死亡後、原告は、戦時疎開のため昭和一九年一二月ごろ同所から栃木市日出町渡辺方に移転し、続いて昭和二二年五月ごろ同市入舟町二丁目二六番地に移転したので、昭和二三年八月ごろ亡磯部辰次郎の妻磯部まつ子名義で富士上吉田町長に対し本件山林につき所有名義人の異動、所有者の住所変更の旨を申し出たところ、所有者氏名の訂正はできないが、住所は書き換えられた旨回答を受けたし、また原告は以前から日本橋区鉄砲町の旧住所近隣の人々に新住所を知らせ、官庁からの問い合せなどの際はこれを告げてくれるように依頼しておいた。したがって、山梨県知事は、本件買収処分をなすにあたって原告の旧住所の近隣の人々を調査することによって、または昭和二三年八月一九日以降は富士上吉田町長に対する照会の方法によって、原告の新住所は容易に分ったはずであり、右調査あるいは照会をしておりさえすれば、本件買収処分にかかる買収令書の交付は可能であった。

しかるに、山梨県知事は、東京都知事に対し昭和二三年八月一六日本件買収処分にかかる買収令書の交付方を依頼し、東京都知事は亡磯部辰次郎の住所となんら関係のない目黒区農地委員会長に対し山梨県知事から依頼された買収令書の送達方を頼んだが、結局右令書は所有者の所在不明という理由で返戻された。そして、その後も山梨県知事は右磯部辰次郎あるいはその相続人の住所を確認するためのなんらの措置もとらなかった。

以上の次第で、本件買収処分は、買収令書の交付に代える公告をなすことができない場合であるにかかわらずこれがなされたものであって、買収処分が原告に対してなされていないという意味で本件買収処分は無効である。

3  本件買収処分は自創法の目的に反する。

すなわち、同法は、自作農を創設し、土地の農業上の利用を増進し、もって農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図ることを目的とする(一条)ものであるところ、本件山林は、終戦直後から、アメリカ合衆国軍隊の、ついで自衛隊の演習場指定区域となり、演習地として使用されて現在に至っている。また買収当時本件山林はアメリカ軍の重戦車や砲兵の射撃演習に使用されており、とうてい買収・売渡により自作農を創設するという自創法の目的を達せられるような土地ではなかった。その後昭和二五年二月一日になって本件山林は被告国から梨ヶ原開拓農業協同組合に売り渡されたが、当時は本件山林を含む附近の土地は米軍車輛によって相当ひどく荒されており、開拓地としての使用は不能であった。開拓地としての使用は不能であったがゆえに本件山林は同二九年三月六日右組合から再び被告国に売り渡されざるをえなかったのである。右のように本件山林は、本件買収処分当時から客観的にみて、開拓用地としての使用が明らかに不能な土地であり、自創法の規定による買収の対象たりえない土地であったのであり、また買収以後の事情をしんしゃくすれば、本件山林の買収は自創法の目的とするところに反していたものといわざるをえない。

三  しかるに、本件買収処分がなされた昭和二二年一〇月ごろ以降被告は本件山林を自衛隊の演習指定地域として使用したため、本件山林は現在は地形上その所在場所を特定することができない。また、山梨県知事は、昭和二六年六月八日、被告のために、自作農創設特別措置登記令一四条一項の規定に基づき、甲府地方法務局吉田出張所に前記磯部辰次郎名義の本件山林の登記用紙の閉鎖の申出をなし、同出張所登記官吏は右登記用紙を閉鎖した。さらに右同日本件山林はその周辺の山林と合筆され、これに新たに富士吉田市上吉田字檜丸尾五六〇七番の二五五山林三九町七反七畝一〇歩なる地番が設定され、右土地について前記のように梨ヶ原開拓農業協同組合のため所有権取得登記がなされ、ついで昭和二九年三月六日被告のために所有権取得登記がなされたのである。そして、右のような経過を経たため、本件山林の公図は、すでに甲府地方法務局吉田出張所にはなく、この面からの右山林の特定も不可能な状態にある。

四  右に述べたとおり、被告国の事務を行う機関の有責(過失)違法な公権力の行使により、本件山林の所有権は依然として原告にありながら、本件山林を特定することができなくなり、そのため原告は所有者としての権利を行使しえず、本件山林の価額相当の損害を被ったというべきである。

五  よって、原告は、被告に対し、国家賠償法一条の規定に基づき、本件山林が特定不能になったことを被告が自陳した昭和三八年一二月二四日現在の本件山林の価額に相当する金七二〇、〇〇〇円および原告が右の支払いを被告に請求した日の翌日である昭和三九年四月九日以降右支払いずみにいたるまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三被告の答弁

一  原告主張の請求原因事実中、本件山林がもと磯部辰次郎の所有であったこと、山梨県知事が昭和二二年一〇月二日本件山林につき自創法三〇条の規定に基づき買収処分をしたこと、右買収処分は、登記簿上の所有名義人たる磯部辰次郎を名宛人としてなされたものであること、原告に対し買収令書が交付されなかったこと、山梨県知事が東京都知事に対し本件買収令書の交付方を依頼し、東京都知事が目黒区農地委員会長に右令書の交付方を依頼したが、交付不能のため返戻されたこと、本件買収令書の交付に代えて公告がなされたこと、本件山林が昭和二五年二月一日に被告国から梨ヶ原開拓農業協同組合に売り渡され、昭和二九年三月六日に同組合から再び国に売り渡されたこと、本件山林が現在アメリカ合衆国軍および自衛隊の演習地の一部となっていること、山梨県知事が本件山林につき原告主張のように登記用紙の閉鎖の申出をなし、右登記用紙が閉鎖されたこと、本件山林はその周辺の山林と合筆され原告主張のような地番が設定され、またそれにつき、原告主張のような登記がなされていることは、いずれもこれを認めるが、現在本件山林を特定することができないとの事実は否認し、その余の事実はいずれも知らない。

二  原告は、本件買収処分が死者たる登記簿上の所有名義人を名宛人としたものであるから、無効であると主張する。

しかし、原告主張の照会は、本件山林所在地の農地委員会に対してしたものではなく、法定の手続きによらない市町村長宛の私信であり、富士上吉田町長が受領したとしても、それによって真の所有者を認定するに由なく、また当時は土地台帳副本等に登載はできなかったのである。(当時施行にかかる地方税法五二条二項、土地台帳法三八条および不動産登記法一一条等参照。)それゆえ登記簿および土地台帳の記載によってなした本件買収処分は正当であって、名宛人磯部辰次郎の包括承継人たる原告に対する買収処分として有効である。

三  原告は本件買収処分にかかる買収令書が原告に交付されず、かつ交付に代わるものとしてなされた公告はその効力がないから本件買収処分は無効であると主張する。

しかし、本件買収処分にかかる買収事務担当機関である山梨県知事は、名宛人の公簿上の住所を所管する東京都知事に対し昭和二三年八月七日本件買収処分にかかる買収令書の交付方を依頼し、同知事は所部の機関をして調査させた(当時日本橋地区に農地委員会が存しなかったので、最寄りの目黒区農地委員会をして買収令書の交付方ならびに住所の調査をなさしめた)結果、名宛人の所在が不明であったので、同年一〇月一八日右買収令書を山梨県知事に返送した。そこで山梨県知事は、やむをえず昭和二三年一一月二九日付山梨県報に買収令書の交付に代える公告をしたものである。当時、東京都内は戦後の混乱の中にあり、原告自身もその自ら主張するように転々と住所をかえていたことが明らかであるから右の事務機関が特段の調査を行なったとしても本件買収処分にかかる買収令書の交付が困難であったことはたやすく想定できるところである。そして、自創法の規定に基づく買収処分のように、大量的な行政処分において個々の農地について登記その他の公簿をはなれて所有者の住所を探索することは事実上困難であり、公簿の記載を一応真実に合致するものと推量することはきわめて自然であるから、登記簿記載の住所によって買収令書の交付ができなかった以上、交付に代わる公告をするもけだしやむをえないところであって適法であるとしなければならない。

四  原告は、本件買収処分は自創法の目的に反するから無効であると主張する。しかし本件山林は演習地として使用する目的をもって買収したものではなく、開拓用地として買収したものである。このことは、本件山林が開拓地として他の買収地とともに梨ヶ原開拓農業協同組合に売り渡されたことによっても明らかである。なお、その後において本件山林を含む富士山麓北辺の事情が変り右組合は横浜調達局の要請により、昭和二九年一月農地法七三条の規定による許可を受けて、同年三月六日売買により所有権を移転し同年四月七日名義人を総理府とする登記を了したものである。以上のとおり、本件山林が現在演習地として使用されているのは、買収および売渡処分後の事情によるものであって演習地とする目的で買収したものでないから原告の主張は理由がない。

第四証拠関係≪省略≫

理由

一  本件山林がもと磯部辰次郎の所有であったこと、被告が本件山林につき本件買収処分をしたこと、本件買収処分は登記簿上の所有名義人たる磯部辰次郎を名宛人としてなされたものであること、原告に対し本件買収令書が交付されなかったことおよび本件買収令書の交付に代えて公告がなされたことについては、いずれも当事者間に争いがない。

二  ところで、原告は、本件買収処分は無効であるから、本件山林の所有者は依然として原告である旨主張するので、以下この点を検討する。

1  まず、本件買収処分はその処分時すでに死亡していた登記簿上の所有名義人である磯部辰次郎を名宛人としたものであるから無効であるとの主張について

≪証拠省略≫によれば、本件山林の所有者であった磯部辰次郎は本件買収処分前の昭和一九年八月二九日に死亡し、同日原告がその家督を相続して本件山林の所有者となったことを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、本件買収処分は死者たる磯部辰次郎を名宛人としてなされたものであって、真の所有者たる原告に対する買収処分は存在しないといわざるをえない。しかしながら、自創法による自作農創設の事業は戦後のわが国における画期的の大事業で、短期間に全国一斉に、大量的に農地、未墾地等の買収を行うものであって、かかる大量的な行政処分において個々の農地について登記簿その他の公簿をはなれて真実の所有者を探求することは、事実上困難であり、公簿の記載は一応真実に合するものと推量することは、きわめて自然であるから、行政庁が農地、未墾地等の買収処分を行うにあたっては、一応登記簿その他の公簿の記載に従ってすることは行政庁の事務処理の立場から是認されるところであり(最高裁判所昭和二八年二月一八日大法廷判決民集七巻二号一五七頁参照)、また、買収処分の名宛人たる登記簿上の所有者がすでに死亡していたような場合には、仮にその死亡の事実が買収の事務を行う行政庁に分っていたとすれば、特段の事情のないときは、その行政庁の意思は、その他の買収要件が同一であるかぎり、死亡者の相続人から買収する意思であったものと解することができるから、いわゆる無効行為の転換の理論により、死者たる被相続人を名宛人とした行為を真実の所有者たる相続人に対してなされたものとして有効として維持するを相当とするところ、自創法三〇条による本件買収処分のごときは、同法三条による買収処分と異なり、買収さるべき人の主観的事情は問題とならず、もっぱら被買収土地等の所在、性質等が問題となるに止まるものである。したがって、本件買収処分は、死者たる被相続人磯部辰次郎を名宛人としてなされたものであるという理由だけでは、これを無効であるということはできない。

そしてこのように解しても必ずしも真の所有者の保護に欠けるということはない。けだし、未墾地の買収計画が樹立されたときは、遅滞なくその旨の公告がなされかつ公告の日から二〇日間市町村の事務所において買収すべき土地等の所有者の氏名等および住所、買収すべき土地等の所在、地番、地目および面積、対価、買収の時期等および期間を記載した書類を縦覧に供することとされ(自創法三一条)、未墾地買収計画に定められた未墾地につき所有権を有するものは、当該未墾地買収計画に異議があるときは、異議申立て、訴願をすることができ、さらに不服のある者には出訴の途も開かれているからである。

2  つぎに、本件買収処分にかかる買収令書が原告に交付されず交付に代わるものとしてなされた公告は、元来公告をもって交付に代えるべき場合でないのになされたものであって効力がなく、したがって本件買収処分は無効であるとの主張について

原告は昭和二三年八月ごろ富士上吉田町長に対し本件山林につき所有名義人の異動、所有者の住所変更を申し出たのであるから、山梨県知事が買収令書の交付に代わる公告をした当時、右町長に対する照会の方法により原告の新住所を容易に知り得たはずであると主張するが、≪証拠省略≫を総合すると、本件山林は、登記簿上前所有者が原告の被相続人である磯部辰次郎、その住所は東京都日本橋区鉄砲町六番地となっていたこと、昭和二三年八月ごろ、同月一六日付で、山梨県知事は本件買収処分にかかる買収令書の交付を東京都知事に依頼し、同知事はそのころさらに右買収令書の交付を右日本橋区の最寄りの農地委員会である目黒区農地委員会に依頼したが交付できず、右買収令書は結局磯部辰次郎の住所不明として昭和二三年一〇月一六日付で山梨県知事に返戻されたため、同知事は右買収令書の交付に代わる公告を、昭和二三年一一月二九日付山梨県報第二二二八号に掲載して行なったこと、他方、原告はその母まつ子および姉田鶴子とともに昭和一九年一二月ごろそれまでの居住地である前記登記簿に記載の亡磯部辰次郎の住所をはなれて栃木市日出町渡辺方に転居し、ついで昭和二〇年四月ごろには栃木県下部賀郡大宮村大字大宮松本方へ、さらに昭和二二年五月ごろには栃木市入舟町二丁目二六番地に転居したことがそれぞれ認められるにすぎず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。もっとも、≪証拠省略≫によれば、富士上吉田町長が磯部まつ子の申出により、その住所を書き換えた旨の記載があるが、なにについて住所を書きかえたのか判然とせず、また、≪証拠省略≫によれば、昭和四一年六月二八日当時富士吉田市役所が保管している土地台帳副本に本件山林の所有者は磯部辰次郎であり、住所は栃木県入舟町二の二六である旨の記載があるが、≪証拠省略≫を総合すれば前記公告の当時の富士上吉田町役場に備付の本件山林の土地台帳副本に所有者磯部辰次郎の住所は東京市日本橋区鉄砲町六番地となっていたことが認められるので、これらの書証もかならずしも右土地台帳副本が前記公告当時に所有者の住所が訂正されていたとの証左にはならないというべきである。仮に前記公告の当時富士上吉田町役場に備付の本件山林の土地台帳副本に磯部辰次郎の住所の訂正がなされていたとしても、山梨県知事が本件買収処分をなすにあたり、登記簿上の所有者である磯部辰次郎の住所を富士上吉田町役場に照会しなければならないわけでないことはいうまでもないから、右照会をすれば容易にその住所が分ったはずであるとの原告の主張はそれ自体失当であるといわざるを得ない。

原告は、また、以前から前記日本橋区鉄砲町の旧住所近隣の人々に原告の移転先を知らせ、官庁などからの問合せなどの際はこれを告げてくれるよう依頼してあったから、原告の住所は調査すれば容易に判明しえたはずであると主張するが、右事実を認めしめるに足る証拠はなにもない。

3  本件山林は本件買収処分当時から客観的にみて開拓用地としての使用が明らかに不能な土地であり、自創法の規定による買収の対象たりえない土地であったから、本件買収処分は無効であるとの主張について

本件山林が本件買収後その周辺の山林と合筆され昭和二五年二月一日に被告国から梨ヶ原開拓農業協同組合に売り渡されたものであることについては当事者間に争いなく、≪証拠省略≫によれば、本件山林を含む附近の土地はいずれも山林であって、農耕そのものに適する土地ではなかったが、薪炭採草地として、他の農地の利用上必要な土地として自創法三〇条により買収されたものであること、および本件山林とその周辺の土地でアメリカ軍が演習を始めるに至ったのは右梨ヶ原開拓農業協同組合が売渡しを受けた昭和二五年ごろからのことであった事実がそれぞれ認められる。証人渡辺広将は右アメリカ軍の演習は昭和二二年頃からであるようにもいうが、結局はその時期はよく分らないと証言しているので右証言は原告主張事実を認むべき資料として採用しえず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。

三  以上の次第で、本件買収処分が無効であるとの原告の主張は採用できないから、本件買収処分が無効であり、したがって本件山林の所有権が依然として原告にあることを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

よってこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉本良吉 裁判官 高林克巳 裁判官仙田富士夫は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 杉本良吉)

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